【BACK FROM THE GRAVE】

(奴らを墓から叩き起こせ!マイ・フェイバリット!)


003【私的屈折青春マンガ10選】


好きなジャンルである。テレビドラマでも「ふぞろいの林檎たち」シリーズのやるせない感じが大好きで、ルーツであると同時にトラウマでもある。おかげで恐ろしくてサラリーマンは出来ませんでした。まあ10代にもどりたいなんてこれっぽっちも思わないですが、これらの作品に共通する「ダメだけどせつない」感が好き。ATG映画のファンにもおすすめ。

安達 哲「さくらの唄」

これはもう連載中前のめりになって読んだ。単行本も発売日に買った。全3巻怒涛の展開。1巻と3巻ではまったく別の話になってしまっているが、おそらくこれも「デビルマン」のようにキャラやストーリーが意思をもって動いてしまった作品なんだと思う。何でもかんでも性欲に直結してオナニーばっかりしている自意識過剰気味の高校生が主人公(ヤンキーあがりの姉と2人暮らし)。こんなにコイてばかりいる主人公は他に見たことがないが、その辺をキッチリ描いたからこそ私を含む絶大な(おそらくモテない)読者の支持を得たのだと思う。そういったグズグズの毎日からふとしたきっかけで校内一の美少女と何となくつきあいが出来てときめいているところに親戚の高利貸しのオヤジ夫婦が転がり込んできてやがて彼の日常にも異様な変化が・・・というのがストーリー。後半の激しい展開もよいが、不平不満をごちゃごちゃ抱えつつも文化祭の企画「自主映画」の撮影のために翻弄されるあたりが好き。安達哲の作品は「キラキラ!」にしても「お天気お姉さん」にしても心の傷を描くのがすごくうまいんだけど、特にこの作品はものすごく痛い。多少内向的でどうも物事がうまくいかんと常日頃思っているひとにはズキズキ突き刺さるイカのかほりにつつまれた青春残酷物語の決定版。ATG映画色もものすごく濃厚。

古谷 実「僕といっしょ」

「稲中」はもちろん素晴らしい。今連載中の「ヒミズ」もすごい。でも忘れちゃいけないのが本作。家出少年の先坂すぐ夫・いく夫兄弟がタトウー入ってて(トライバル!)弁髪でシンナー中毒の浮浪少年・イトキンと出会い、人のいい床屋(娘つき)の家に転がり込んで大騒動!というのがおおまかなストーリー。一応形としてはギャグだけれど、根底に流れているものはとんでもなく重い。作品中の登場人物に「ななな何とかしてえ〜」「ダメだす!ダメだす!」と本作のテーマをオリジナルソングとしてうたわせている。多分「これは重すぎる」と軌道修正したのが少しオシャレな次作「グリーンヒル」なのだと思う。現実をまったく見ようとせずにプロ野球選手になる夢ばかり見ているダメ人間・すぐ夫とあらゆる現実をありのままに受け入れてしまうが故に自堕落な性質になってしまうダメ人間・イトキンのコンビが絶妙。特に自分のみにくさやみっともなさを全開にして鼻水たらして泣きまくるイトキンにシンパシーを感じる。「クズ」だからじゃない。彼の「繊細さ」が心に痛いのである。イトキンが勇気をふりしぼって自分なりのアクションをおこす最終回に魂を揺さぶられない奴はもう、知らん。笑えて実は泣けるんだけど「ペーソス」方面に足元をすくわれていないバランスを保った「僕といっしょ」は絶対名作なんだけど、いまいち評価が低いのはどういう事なんだろうと思う。

西原理恵子「ぼくんち」

サイバラの最高傑作。丸っこい絵と卓越した色彩感覚による単行本は一見絵本のようである。でも出てくるキャラはほとんど人間のクズかハードコアに生きる人びと。学校にも行かずウラのシノギで生計を立てる一太・二太兄弟。彼らの兄貴分でありトルエンなどの販売を仕切っている町のチンピラ・こういちくん。ピンサロで働くかの子ねえちゃん(というか、突然姉になった)。蒸発した母親。浮浪者。シャブ中。ムショ帰り。舞台は貧乏な漁村のようだが日本というよりアジアのどこか、と考えたほうがしっくり来る。一太がこういちくんについてシノギを覚えて成長していく姿がこのマンガの軸になるものなのだが、もう読むたびにあたし、泣いちゃうんです。じゅんって。実は家族思いのこういちくんのエピソードとか(姉が死んだあと漁師として再出発する)、一太の悲しい最期、ねえちゃんとの別れ、そしてラストの二太のセリフ「こういう時は笑うんや」。ぐっ。うええん。自分の手を汚した者だけが知ることが出来る優しさというかそんなものがあふれかえっていて、プライベートでも元アル中でヘロイン中毒のダンナ(鴨ちゃん)をしっかり受け止めている本人ともども力強い。くわしくは知らないけどこれってもうプロレタリア文学の域に達しているんじゃないだろうか。生きることの綺麗さも下らなさも同じ分量で煮しめた本作は小学館漫画賞受賞。以上「ダメでも何とかなる」背中を押してくれる3作品、個人的マンガ体験のベストです。

安田弘之「ちひろ」

透徹した視線をもってしたたかに生きる風俗嬢・ちひろの物語。作者は「ショムニ」の原作者(あの水戸黄門みたいなドラマがあたったせいか、最近の作品はかなり好き勝手に描いているようで)。よくある男の理想丸出しの「体も心もピュアでキレイでその包容力で店のトラブルもすべて解決」みたあいなノリではない。彼女は「カラダとココロのスイッチをオフできる」「プロの射精職人」なのであるからして。特に「今自分が風俗で働いていること」をかつての同僚や恋人に打ち明け、口ではがんばれなどとはげましながらも彼・彼女らの好奇心や蔑視の表情を一瞬のうちに読み取ってしまうというエピソードが好きで、バイバイしたあとに「ふざけんな」「ばあか」「その一瞬の表情を見たかっただけなの」と一蹴する。出待ちをしている客に対してニッコリ笑顔でバッサリ切り捨てる姿も超クール。知り合いにもいるけど、風俗嬢という職業は世界一クールだ。

根本 敬「天然」

根本マンガの常連キャラ・村田籐吉にも青春はあった。しかも彼は野球の天才であったというのがこの作品。根本世界的因果の法則によりさまざまなくだらねえ事が村田少年に襲いかかり、最終的には見事なオチがつくというぺったらぺたらこ大河野球マンガ。実は根本敬は稀代のストーリー・テラーなのだ。特に唯一村田に理解を示す野球部顧問の教師が部の宿泊先の風呂場でオナニーしたのがバレてしまい、辞表をだすハメになってしまうくだりは彼にしか描けない根本的因果世界観の真骨頂。ホントにくだらねえんだ、このエピソード。好敵手・吉田佐吉もお大尽の息子としてもちろん登場。因業親父と一緒になって村田一家をいじめまくる。彼の作品の常としてもちろんここでもイイ顔のオヤジ・汚ねえババア・底意地の悪いクソガキなどを容赦なく描写。根本作品を絵が汚いといって読まないひとも多いが、そりゃあマンガ読みとしては甘ちゃんでしょう。彼は自分の手を汚して作品を描いている。われわれも顔をドブにつっこむつもりで読まなければならない。そう思わせる稀有な作家である。作風をまったく変えない(というか今もっとすごい)腹のくくり方も尊敬に値する。もっとすごいのが読みたければ「ミクロの精子圏」「タケオの世界」をどうぞ。これらの作品で根本敬は神に近つ”いた。

池上遼一「スパイダーマン」

かつて東映が日本版スパイダーマンというのを放映していたが、これが妙に海外のマニアに受けているらしい。後半唐突に巨大化した怪人とスパイダーマンがロボットを操縦していい加減に戦う(スパイダーマンだけでは商売にならないので明らかに商品化を狙ったもの)という内容だった。この池上遼一作画・平井和正(後半)原作による作品もそれに勝るとも劣らないカルトマンガ。どうしてこれが屈折青春マンガかというと、スパイダーマンである主人公の高校生があまりにも青くさく人間くさく悩みまくるから。スパイダーマンは売名行為だと叩かれれば悩む。自分の力なんて何の役にも立たないんじゃないかと悩む。ああルミちゃん好きだあと悩む。平井和正原作になってからはスパイダーマンとして登場するのが蛇足にしか見えない話がほとんど(変身しない回あり)。ゴーゴーガール・ベトナム戦争帰休兵・ゲリラを支援する若者グループなど70年代テーマも盛りだくさん。われわれ日本人にはアメコミ版より面白いと思う。さてサム・ライミは日本版スパイダーマンを超えられるか?

松本零士「男おいどん」

東京で一旗上げようと自意識のみが肥大したド近眼でチビでガニマタの大山昇太(のぼった)が仕事・恋愛などをことごとくご破算にするというエピソードが全9巻延々と続く。布団もないのでシマのパンツにくるまって明日のために今日も寝る。明日になれば何か展望があるかといえば何もない。悲しい時もうれしい時も最高のごちそうはラーメンライス。今の目で見るとファンタジー感すら漂うこんなビンボーマンガがかつて少年マガジンの連載で人気を博していた。国民的作家・松本零士の作品だがヤマトとかに比べてもうひとつの作風である 安アパートの4畳半ものは今ひとつ読まれていないらしい。でもこの人の頭の中では4畳半も大宇宙につながっているはずだ。なぜなら出てくる女の人がみんな「メーテル」だから。バリエーションまったくなし。さらにアダルト版「恐竜荘物語」「聖凡人伝」もおすすめ。実はスレンダー美人が「抱いて」なんつって覆い被さってくるこの辺の作品が私のエロ・トラウママンガであります。なんかマグロ願望丸出し。

ちばてつや「あしたのジョー」

この作品が世代を超えて愛されているのはジョーが勝ち組みだからではない。ジョーは重要な試合では1度も勝利しない。有名な力石徹との試合は力石は死ぬが勝利する。カーロス・レベラとの試合は両者反則のケンカ試合のため無効。ホセ・メンドーサとの試合も負け。例のリングで真っ白になる有名なシーン。あまり知られていないが、後半ジョーはボロボロのパンチドランカー状態になる。努力と根性で何でもかんでも勝っちゃったらこれほど後世に残る作品にはならなかっただろう。その点今の少年誌に連載されている作品から一体何を学べるのか、何が残るのかという気がしてならない。某バスケマンガなんかは作者の意思に反して編集部が主人公を負けさせなかったらしい。あーあ。とにかく「ジョー」は自分のようなスポーツ大嫌いの根性なしにもハマって読める作品。

Q・B・B(久住・バカいってんじゃないヨ・ブラザース)「中学生日記」

「一生で一番ダサい季節」とサブタイトルにもあるように赤面ものの男子中学生の生態をあますところなく描いた名作。そこ、逃げないように!大ウソのローティーンが主人公のマンガがあふれる中でリアル中坊の行動原理を伝えた原作者・久住昌之にはこの時代に対する屈折した愛情を感じる。多分女子が読んでもそんなに面白くはないんだろうと思う。この時点で女性には差をつけられていたという事だろう。それにしてもモー娘の辻希美ってヤバイよな。何でも「”」が入った発音といい、あれで中2かそんくらいって、電波に乗せてしまうのはいかがなものかと。あの年頃だったらすでにクールビューティーの域に達している子はいるぞ。アイドルの宿命として「ののたん」でオナニーしているファンも当然いるわけで。超こええ。って大きなお世話ですね。人の数だけオナニーの自由がある(なんだこのシメは)。

みうらじゅん「アイデン&ティティ」

これは全然屈折してない。みうらじゅん氏のボブディラン及びロックに対する思いがストレートに伝わった作品。バンドブームで浮かれていた時代(大島渚!)の自分に対する戒めでもあるようだ。ものすごく真面目なマンガである。みうらさんは本人が作品を超えて面白いというところがあって、「みうらじゅん」という名前に対してマンガがあまりメジャーではないが、この「アイデン&ティティ」は月9とかでドラマ化されてもおかしくないような内容なので、主演はトキオの長瀬あたりにやってもらって、みうらさんにはもっと金持ちになってほしいと思う。そしたらますます下らないことに大金を使ってほしいと思う。今放送している「漂流教室」ももんのすごい改訂版なので可能性はあるんでないか。主題歌が山下達郎の「ラブランド・アイランド」ってどいういうセンスなんだかなあ。ところで10年ほど前にディランが来日した時にみうらじゅんが作成したポスターのデザイン知ってます?ただ「プヒ〜」って描いてあるだけ(!)。これはディランを完全に自分のものにした上での究極の形だと思うし、ゴーサインを出したほうもすごい。それだけまわりにも認めさせてしまっているということだ。彼にしか出来ない素晴らしい仕事だと思う。

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